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  • 2014.03.25 Tuesday
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書評・村上龍「無趣味のすすめ」〜価値ある仕事とは何か〜

評価:
村上龍
幻冬舎
¥ 1,260
(2009-03-26)

村上龍という作家の作品を買ったのはもしかして初めてかも知れない。


作家というよりは、TV番組「カンブリア宮殿」などに出演している時の
強面の司会者というイメージが強かったし、
その近年の作品も小説というよりは、
現実社会の刺激の強すぎるシュミレーション然としていて、
あまり手にする気にはならなかった。
要するにハードなイメージが強かったのだ。
小説を読むなら、もう少しポジティブな感情移入がしやすいもの、
現実社会を効率よく生きたいと願う時は、
ビジネス書などの実用的なものを選んでいた。
村上龍の「無趣味のすすめ」を買う決心をした直接的なきっかけは、
帯に印刷されていた、”大転換期を生きる人の必携・箴言集」”と
いうコピーに惹かれたからだと思う。
あまり買うことは無いが、幻冬舎の広告はいつも本当に刺激的だ。

”大転換期”。まったくその通りだと思う。うんざりするぐらいだ。
毎日のように日経新聞は名だたる企業のM&Aを報じ、
事業撤退を報じ、危機を叫ぶ。
サブプライムショックは、海の向こうで手の届かないところで起き、
あおりを被ったお陰で、僕は二度の就職氷河期を経験することになった。
頼るに値するものは、もはや何も無くなってしまったみたいだ。
不確実の時代。
では、村上龍の箴言とは?

4ページごとに主題に沿った「箴言」はかなり刺激に満ちたものだった。
本書のタイトルともなった、冒頭の「無趣味のすすめ」から引用する。


 (中略)だから趣味の世界には、自分を脅かすものがない代わりに、
 人生を揺るがすような出会いも発見もない。心を震わせ、精神を
 エクスパンドするような、失望も歓喜もない。真の達成感や充実感は、
 多大なコストとリスクと危機感を伴った作業の中にあり、常に失意や
 絶望と隣りあわせに存在する。


趣味が高じて、仕事になってしまうことはあるが、
それはもはやあくまで「仕事」であって「趣味」ではない。
責任が生じ、義務と制約の中で自由は失われる。
「本当に好きなことを仕事にしてはいけない」という処世訓があるが、
安楽であるべき「趣味」を、「趣味」たらしめるためという意味では、
言わんとしてることは近いのかもしれない。
身もふたも無いほど実際的で、容赦のない「箴言」。

本書はほとんどの章が、実践的で、蒙を開かれる思いがした。
ただしかなり、厳しい内容だ。
容赦のない指摘は読んでいて、胸を刺された思いをしたことも
一度や二度ではない。
 
 
 目標は達成されるべきのもので、語られるものではない。
 達成のための努力を続けている人は、他人に自分の目標について
 語るような時間的余裕はない。
 いまだ達成されていない目標は、他人に語ることで意志が「拡散」する。
 目標は自らの中に封印されていなければならない。
 だから目標を持つのは基本的に憂うつなことなのである。
 
 (「夢と目標」より)
 
 
 そして、経済的弱者は幻想にすがる。以前の講演会で、金よりも
 自分らしさを大事にしたい、という学生がいて、
 「じゃあ年収は最低どのくらいあればいいのか」
 「その金をどうやって稼ぐのか」
 「結婚はしないのか」「生活保護でもいいのか」と
 質問したら涙ぐむだけで答えられなかった。
 繰り返すが、仕事は何としてもやり遂げ、
 成功させなければならないものだ。
 仕事に美学や品格を持ち込む人は、よほどの特権を持っているか、
 よほどのバカか、どちらかだ。
 問題は品格や美学などではなく、
 Money以外の価値を社会および個人が
 具体的に発見できるかどうかだと思うのだが、
 そんな声はどこからも聞こえてこない。
 
 (品格と美学について)
 
 
耳の痛い話だ。「自分らしさ」、「自分を表現できる仕事」。
多分、働くという行為が抜き差しならぬ生存の手段から、
社会全体がそれなりに豊かになって、自己達成の手段になってからの
一朝一夕にはぬぐい難い呪縛のようなフレーズだ。
その呪縛は二度の不況を体験しても、いまだに有効だ。
僕にもいまだにそのような考えがあるのを否めない。
といっても「Money以外の価値」とは何を指すのか。
それすらも混沌としている。
仕事の中に「Money以外の価値」を見出すとしたら
やりがいやモチベーション等の、より自律的な充足を求めるべきなのだろうか。
 
 
 皮肉なことに、モチベーションという言葉が流通し定着するのは、
 多くの新入社員が入社後間もないうちに退職し、ニートが話題になり、
 フリーターと呼ばれる不安定な就業者急増するようになったころだ。
 (中略)
 モチベーションという概念は、希望につながっていなければならない。
 その仕事をやり抜くことで、自分にとって、
 また家族や同僚や会社にとってより良い未来が開ける、
 そういった確信がなければモチベーションは生まれようがない。
 (中略)
 その仕事やプロジェクトに対し、積極的に意義を見出し、
 そのことを密なコミュニケーションで正確に伝え、
 そこに希望が生まれなければ、
 モチベーションという言葉はただの呪文に堕してしまう。
 
 (モチベーションと希望)


仕事をやりぬくことで「より良い未来」が開けるという確信は、
以前の僕にとっては希薄だった。
ただただキャリアアップという強迫観念に取り付かれ、
目の前の仕事に自覚的に意義を見出そうとしなかったように思える。
もちろん、意義の見出しにくい業務だったのも原因のひとつだったが。
しかし、やり抜くことで自分と家族と同僚と会社にとって、
「より良い未来が開ける」、仕事とはどのようなものだろうか?
切実に知りたい。
本書に従えばその仕事とは、趣味のような嗜好的なものではなく、
なおかつ「Money以外の価値」を見出すことができるもののはずだ。
ありていに言えば、「社会に貢献できている」と実感できる
仕事なのだろうか?
まだ僕の中では答えは出ない。


他の章もクール過ぎるほどクールで、突き放すような主張が散見できる。


 部下をどう叱ればいいのか分からない上司が増えているらしい。
 (中略)
 仕事のやり方がわからないのなら「叱ったりしないで」教えればいいし、
 やり方がわかっているのにやらないのなら、代えるか、
 または辞めてもらえばいい、それだけのことだ。
 「叱り方」と言えば聞こえがいいが、「教え方がわからない」と
 言い直すとその上司は単にコミュニケーション能力がない、
 つまりただのバカ、ということになる。
 また上司自身が、自らの経験に頼るだけで、
 一般的・普遍的な仕事のやり方を知らない、
 または伝えることができないケースも多い。
 
 (中略)
 どうやって部下を一人前に育てるか、
 そんなことを真剣に悩んでいる上司がいることも
 信じられない。やるべき価値のある仕事を共にやっていれば
 何か特別なことをしなくても、
 つまりことさらに何かを教えなくても、人間は自然に成長する。
 問題は部下との接し方などではない。
 取り組んでいる仕事が本当にやるべき価値があるのか、
 そのことを確認して、その価値を共有することのほうが
 はるかに重要である。


 (部下は「掌握」すべきなのか)
 


凡百の自己啓発書より、より実践的で読み手の心に迫る本だ。
最後に長くなるがもう一章だけ引用する。
 
 
 仕事上のほとんどの失敗は「単なるミス」で、準備不足と無能が
 露わになり、信頼が崩れ叱責されるだけだ。得るものは何もない。
 何かを得ることができるのは、挑戦する価値があることに
 全力で取り組んだが知識や経験や情報が
 不足していて失敗した、という場合だけだ。
 そもそもたいていの人は、挑戦する価値のある機会に遭遇できない。
 何に挑戦すればいいのかもわからない。
 挑戦する何かに出会うのも簡単ではない。
 そこから何かを得ることができる失敗をするためには、
 挑戦できる何かと出会うことが前提となる。
 条件は「飢え」だ。出会うことに飢えていなければ、
 おそらくそれが運命の出会いと気づかないまま、
 すれ違って終わるだろう。

 
僕は飢えているはずだ。しかしまだ飢えが足りないのだろうか。









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  • 2014.03.25 Tuesday
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コメント
飢えが足りているのにその運命の出会いがないのならば、もっともっと飢える方向へ傾くよりも、機会を増やす方がカンタンな気がします(´∀`)
その言葉が正しいのであれば、ですが。

村上龍の小説はほとんど読んでいて、だからこそこういった本だったりは「何を偉そうに」と避けていました。村上龍というひとを知らずに読んでみたいなぁ。

触れている現場が違い過ぎていると反感を持つ気もするし、"だから日本の企業の構造はダメなんだ"と思えるような気もするし、怖いですね(汁。
  • BNFM
  • 2009/04/03 5:33 PM
>BNFMさん
こんばんわ。
運命に出会う機会を増やすか。。。
人と会うのもそうだし、本を読むのも
多分そうですよね。
なかなかもっと具体的な行動に移すには
まだまだ身体がついていかないのが悩みです。

>村上龍の小説はほとんど読んでいて、
>だからこそこういった本だったりは
>「何を偉そうに」

すごいな。お勧めの作品何かありますか?
確かに村上龍って、高みに立った物言いの
本が多そうで僕も避けていました。
村上龍よりは村上春樹の方が好きだったし。
たまに聞く「勝ち組は村上龍読んでて、負け組みは春樹読んでる」みたいな物言いもあまり好きではなかったです。

>触れている現場が違い過ぎていると
>反感を持つ気もする

確かに。かなり一刀両断な感じはあるので
そのケースから漏れると「現実はそんなもんじゃないよ」って感じるかもしれない。
そこがまあ持ち味なのかもしれないけれど。



  • 3amop@運命の出会い
  • 2009/04/03 7:29 PM
> まだまだ身体がついていかないのが悩みです。

飢え=気持ちに引っ張られて動けるよになる瞬間が来ます。何度だって。世界は自分の心ひとつで寛大になるようですよ。

> お勧めの作品何かありますか?

"すげーなオイ"と思ったのは「イン ザ・ミソスープ」ですが、おすすめしませんw読んでて吐きそうになるグロさです。

「音楽の海岸」は色眼鏡とっぱらって面白かったですよ。中上健次へ捧ぐとあるだけに中上テイストかな。村上龍の長編でこれと「限りなく透明に近いブルー」は文学の匂いがします。

> かなり一刀両断な感じはあるので

文壇のマリー・アントワネットですから、そりゃ「やり方がわかっているのにやらないのなら、代えるか、または辞めてもらえばいい、」でしょう。

> そこがまあ持ち味なのかもしれないけれど

同意です♪
  • BNFM
  • 2009/04/03 9:21 PM
>飢え=気持ちに引っ張られて動けるよになる瞬間が
>来ます。何度だって。世界は自分の心ひとつで寛大
>になるようですよ。

いい言葉ですね。「世界は自分の心ひとつで寛大になる」か。。。。心はどうやって変えればいいのか。

「音楽の海岸」か。機会があったら
読んでみます。

文壇のマリーアントワネット、藁た。
  • 3amop@「その瞬間を待っている」
  • 2009/04/04 1:55 AM
「無趣味のすすめ」本体?については、ようやく読むことができたので、寸評ということで一言。

内容的には、「GOETHE」に書いてあったあれかぁ・・・なので、割愛しますが、本自体の装丁や活字の選び方が、ちょっといやらしいですね。

強いて言うならば、ホテルの机の引き出しを開くと出てくる「聖書」を連想させる見た目という感じがしました。

個人的には、内容そのものよりも、そっちのほうがヤバイんじゃないかな?と思ったりもするわけで、思想的には好きだったのに、方向付けがそれでいいのか?ヲイヲイ・・・という感じがしました。

それが、著者である村上氏の意向なのか、それとも出版社である幻冬舎側の意向なのかはわかりませんが。

もっとも、ああいう装丁にするというのは、(幻冬舎の)見城氏あたりじゃないとやれないのでしょうね。
  • 佐藤哲也
  • 2009/04/04 11:47 AM
佐藤哲也様

はじめまして。3amopと申します。

>ホテルの机の引き出しを開くと出てくる「聖書」
>を連想

なるほど。
聖書にも”箴言”という章がありますね。
本書の主題ごとの文章量が少ないという特徴が、
”箴言”の、断片の集積的な格言集という面と
共通しているので、「どっから読み出してもいい」ような章立てや、ビジュアルにしたのではないでしょうか?
それが作者の意向かどうかはともかく。
ちなみに、僕は読後に参考になりそうな所に
付箋をしました。
良くも悪くも具体的で、処方箋めいた内容です。

幻冬舎の見城氏は検索してみましたが、なかなかやり手のようですね。
同時代を生きる人間の、不安や共感や興味を惹起する出版物が、幻冬舎には多い印象を受けます。




  • 3amop
  • 2009/04/05 8:34 AM
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